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最高裁判所第三小法廷 昭和44年(オ)1160号 判決

上告人

中沢敬二

代理人

金子文吉

被上告人

山田喜一

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担となる。

理由

上告代理人金子文吉の上告理由第一点および第二点について。

昭和三八年三月一〇日上告人の兄訴外中沢恭一は、被上告人に被らせた損害に対し、金一〇〇万円を同月以降毎月二万円ずつ分割して支払い、右分割金を二回怠つたときは期限の利益を失うことを被上告人に約し、上告人は同訴外人の右債務に対し水沢勝司、南雲広作とともに連帯保証したものであり、右債務については水沢勝司らの合計金七〇万円の支払により金三〇万円が残存するにすぎず、上告人は右一〇〇万円の連帯保証債務につき公正証書を作成するために印鑑証明書と委任状を被上告人に交付したものである旨の原審の認定判断は原判決挙示の証拠関係に照らして首肯できる。右事実認定の過程において証拠の取捨を誤つた違法は認められないし、また原審の認定した事実関係のもとにおいては本件公正証書に基づく強制執行を権利の濫用と認めることもできない。原判決には所論の違法はなく、論旨は採用できない。

同第三点について。

所論の点についての原判決の措辞は簡単にすぎるきらいはあるが、そのいわんとする趣旨は、本件公正証書については、執行約款をも含めて契約条項は既に当事者間において予めとりきめられ、右公正証書作成の代理人は、単に右条項を公正証書に作成するためのみの代理人であつて、新たに契約条項を決定するものでないから、右公正証書作成につき上告人の代理人となつた今井鹿蔵が、上告人の委任状に基づき被上告人の選任したものであつても、右代理人選定委任は民法一〇八条に違反せず、今井鹿蔵による代理行為は有効で、したがつて、本件公正証書も有効であると判断したものと解され、この原審の判断は是認できる。引用の判例は本件に適切でない。原判決には所論の違法はなく、論旨は採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(松本正雄 田中二郎 下村三郎 飯村義美 関根小郷)

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